近年、企業間取引(B2B)のデジタル化が急速に進み、オンラインでの発注や見積もりが一般的になってきました。さらに、移動中や業務の現場からでも取引を行える、モバイル対応への関心も高まっています。
本記事では、B2Bモバイルコマースのメリットと課題、そして導入戦略を解説します。自社のB2B購買環境を見直したい企業は、ぜひ参考にしてください。

B2Bモバイルコマースとは
B2Bモバイルコマースとは、企業間の取引をスマートフォンやタブレットを通じて行うことを指します。モバイルに最適化されたECサイトや専用アプリを通じて、注文や見積もりなど一連のB2B購買プロセスをモバイル端末上で完結できます。
モバイルコマースとは
モバイルコマース(Mコマース)とは、モバイル端末を通じて行われる商取引を指します。場所や時間を問わず取引できる利便性の高さから、B2C(Business to Consumer)を中心に急速に普及しています。

B2CとB2Bのモバイル体験の違い
モバイルでの購買体験において、B2CとB2Bの違いは、企業間取引向けの機能の有無です。ページの表示速度やモバイルへの最適化はB2CでもB2Bでも不可欠ですが、B2Bではさらに以下のような機能が必要とされます。
- アカウント管理:本社や支社の住所や連絡先登録、スタッフへの発注権限付与、購買データのエクスポートなど
- 発注:社内承認前の注文の一時保存、ワンクリックでの再注文、複数の宛先登録など
- 価格の確認:見積もりの依頼やボリュームディスカウントなど
- 決済:後払いを始めとするB2B向け決済への対応や発行済み領収書のダウンロードなど
- 取引の承認:上長や購買部門への発注承認依頼の送信、発注の承認と却下、承認状況のリアルタイム確認など
- カスタマーサポート:担当営業へのメール、電話、チャットでの直接のやり取りなど
B2Bでモバイルコマースが重要な理由
B2Bでモバイルコマースが重要な理由は、モバイル端末でのEC利用が拡大する中で、B2Bにおいても同様の傾向が進んでいくとみられているからです。その背景には、主に2つの事情があります。
一つ目は、B2BにおけるEC利用の拡大です。経済産業省が2025年に発表した「令和6年度 電子商取引に関する市場調査報告書」によると、2024年の日本のBtoB EC市場規模は514兆4,069億円(前年比10.6%増)に達し、EC化率は43.1%となっています。EC市場規模とEC化率はともに、2020年から2024年にかけて右肩上がりで増加しており、企業間取引のオンライン化は着実に進んでいます。
二つ目は、モバイル端末の普及です。総務省の「令和6年通信利用動向調査」によると、2024年の時点で、日本国内のスマートフォン保有率(個人)は80.5%に達しており、2020年から右肩上がりに増加しています。
企業のモバイル端末利用に目を向けると、MMD研究所の2025年の調査では以下の通りです。
- 社内携帯電話を利用:31.4%
- 個人の携帯電話を業務利用:27.3%
- 利用していない:47.9%
2024年の同調査では、社内携帯電話の利用は31.5%で1年間で変動は少なく、社用携帯電話の導入はいまだ途上にあります。
一方、ITコミュニケーションズが2023年に実施した調査では、B2B商材の情報収集に利用するデバイスとして、パソコンが84%、スマートフォンが72.6%となっています。この結果から、業務の検討段階において、モバイル端末で情報収集や発注を行うことが一般的になりつつあることが分かります。
B2Cにおいては、スマートフォン経由のEC利用は既に拡大しています。経済産業省の同調査によると、物販系BtoC-ECにおけるスマートフォン経由の市場規模は2024年に9兆3,904億円に達し、スマートフォン比率は61.7%となっています。2016年の31.9%から一貫して上昇しています。
こうした流れを受け、国内でもB2Bモバイルコマースへの対応を進める企業が出始めています。たとえば、アスクル株式会社は2025年に、中堅・大企業向け購買サービス「ソロエルアリーナ」のスマートフォン対応を実施しました。同社は、医療、介護、飲食、小売などの現場でスマートフォンから注文する需要が高まっていることが、ユーザー調査により判明したとも報告しています。

B2Bモバイルコマースのメリット
受注業務の効率化
モバイルに対応したECサイトなどを導入することで、これまで電話やFAXで行っていた受注対応をオンラインに移行できます。たとえば、工場や飲食店などPC環境の整っていない現場からでもB2Bモバイルコマースにより、現場スタッフは、その場でオンラインで発注を完結できるようになります。このようなセルフサービス型のB2B購買により、担当者が電話を受けて内容を手入力する工程が不要になり、受注処理にかかる工数とコストを大幅に削減できます。
また、注文データがシステムに直接連携されることで、手入力による転記ミスや注文内容の聞き間違いといったヒューマンエラーを防ぐことができます。結果として、クレーム対応が減り、担当者はより付加価値の高い業務に集中できます。
顧客エンゲージメントの向上
B2Bモバイルコマースでは、モバイル特有の機能を活用した購買促進が可能です。たとえば、収集したファーストパーティデータをもとに、各取引先に合わせた商品レコメンドやセール情報をプッシュ通知で届けることで、メールよりも顧客に目を通してもらいやすくなります。
また、ECサイトやアプリをモバイル上の企業内SNSやメッセージングアプリと連携させることで、顧客が普段利用しているチャット上でも商品提案や情報発信が可能になります。顧客にとって馴染みのある環境でコミュニケーションを取ることで、顧客との接点を増やせます。
競合優位の確立
B2Bモバイルコマースへの対応によって利便性を高めることは、競合他社との差別化につながります。モバイルに最適化されたECサイトやアプリは、いつでもどこからでも発注や承認ができ、画面タップによる直感的な操作で素早く注文を完結できるなど、PCサイトと比べて優れた購買体験を提供できます。
さらに、スマートフォンやタブレットに備わる生体認証機能を活用することで、煩雑なログイン操作やクレジットカード番号の入力が不要になります。こうした利便性の高い購買体験は、取引先が発注先を選ぶ際の判断基準になります。結果として、競合よりも使いやすいB2B購買体験を提供できれば、リピート率やCVR(コンバージョン率)の向上にもつながります。
取引機会の拡大
B2Bモバイルコマース環境を整えることで、これまで取り込めていなかった顧客層にもアプローチできます。たとえば、Googleはサイトのモバイル対応を推奨しているため、SEO対策の一つともいえます。検索結果で上位表示されれば、オーガニックトラフィックの向上が期待できます。
有料広告においても、 サイトの表示や操作性をモバイル端末に最適化しておけば、モバイル広告からスムーズに遷移してもらいやすくなり、モバイル端末で情報収集をしている購買担当者にもリーチできます。さらに、モバイルの位置情報を活用した広告により、オフィス街や工業地帯など、特定のエリアに勤務するビジネスパーソンへピンポイントで訴求することも可能です。
営業担当者の生産性向上
モバイル対応のECサイトやアプリがあれば、営業担当者は商談の質と効率を高められます。たとえば、商談中にスマートフォンやタブレットでサイトへアクセスし、その場で商品カタログを案内したり、取引先と一緒に注文を作成したりできます。デスクに戻ることなく、商談から受注までを完結できます。
また、取引先の購買履歴や契約価格などのアカウント情報にリアルタイムでアクセスできるため、営業担当者は現場で即座に的確な提案ができます。移動中や業務の合間にも対応できるため、1日あたりの商談件数を増やすことにもつながります。

B2Bモバイルコマースの課題
アプリ開発のコスト
B2Bモバイルコマースを導入する方法の一つとして、自社専用のネイティブアプリを開発するという選択肢がありますが、ゼロからの開発には多くのコストと時間がかかります。一般的なアプリ開発費用は200万円〜3,000万円程度とされており、会員管理や決済機能を搭載する場合は、開発期間が半年以上になるケースもあります。
リリース後も、バグ修正やアップデート、新機能の追加に継続的なコストが発生します。また、ビジネスの成長や市場の変化に合わせてアプリを改修するたびに、開発リソースが必要になります。
開発コストを抑えるには、サイトのアプリ化に対応したプラットフォームを活用する方法があります。たとえば、Shopify(ショッピファイ)なら、モバイルアプリビルダー機能を導入することで、自社ECサイトを手軽にアプリ化できます。
既存システムからの移行
現在利用しているホームページ作成ツールやネットショップ作成サービスがモバイルに対応していない場合、モバイルコマースを導入するには新しいプラットフォームへの移行が必要になります。移行にあたっては、商品データや顧客データの引き継ぎやデザインの再構築など、相応の時間とコストがかかります。
また、ERP(統合基幹業務システム)やOMS(受注管理システム)など既存の基幹システムとの連携も改めて設計し直す必要が生じる場合があります。
サイトの移行を円滑に進めるためには、データの引き継ぎサポート機能や既存システムとの連携実績が豊富なプラットフォームを選定することが重要です。
モバイルに適した設計
PCサイトのデザインをそのままスマホのアプリやサイトへ流用するだけでは、購買担当者にとって使いにくい画面になりがちです。ボタンが小さすぎる、テキストが読みにくい、目的の商品にたどり着くまでの操作が多すぎるなどの問題が生じ、離脱につながります。
また、iOS(アイオーエス)とAndroid(アンドロイド)の両方に最適化した設計も不可欠です。デバイスやOSのバージョンによって表示が崩れないよう、継続的なテストが必要になります。さらに、電波が不安定な現場環境からのアクセスを想定し、ページ表示の高速化や軽量な設計が求められます。
モバイル向けに画面をデザインするためには、デザインテンプレートを活用してUI(ユーザーインターフェース)を設計することが有効です。サイトスピード改善には、画像の最適化やCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の活用などに取り組むことが重要です。
セキュリティの管理
モバイル端末は常に持ち運ばれる前提のため、モバイルサイトやアプリ上の取引情報や顧客データがセキュリティリスクにさらされやすい環境にあります。たとえば、取引先の購買担当者や自社の営業担当者が端末を紛失したり、置き忘れたりすると、第三者に端末を操作されてしまうリスクがあります。また、複数のスタッフが同一端末を使い回すケースでは、アクセス権限の管理が複雑になります。
こうしたリスクへの対策として、ワンタイムコードや生体認証を導入することで、不正なアクセスを防げます。また、担当者の役割に応じてアクセスできる機能や、情報を制限する権限管理の設定も重要です。たとえば、決裁権のない担当者のアカウントでは、カートへの追加や注文の作成はできても、最終的な決済や発注の確定はできないように設定することで、不正な発注や操作ミスを防ぐことができます。
購買担当者への浸透
B2Bモバイルコマースを導入しても、取引先の購買担当者に実際に使ってもらえなければ意味がありません。長年、PCサイト、FAX(ファックス)、メールなどで発注してきた担当者にとって、モバイルでの発注は新たな操作を覚える手間が生じるため、導入初期には抵抗感が生まれることがあります。
特にB2Bでは、SKU(在庫管理単位)数が多く商品カタログが膨大なため、小さな画面では作業しにくいと感じる担当者も少なくありません。また、PCであれば複数の画面を並べ、社内の購買リストや上長からの発注依頼メールを確認しながら注文できますが、スマートフォンではそれができません。注文内容の確認ミスへの不安から、「重要な発注はPCで行いたい」と考える担当者もいるでしょう。特に金額が大きい注文や大口発注の場合は、その傾向が顕著です。
モバイルコマースを受け入れてもらうためには、モバイルでの操作をできる限りシンプルにする設計が重要です。また、導入時に操作方法のガイドやサポート窓口を用意することで、担当者の習熟をスムーズに促すことができます。

B2Bモバイルコマースの導入戦略
1. 自社に合った導入方法を選ぶ
B2Bモバイルコマースの導入方法は、自社の状況によって異なります。導入方針を決める前に、開発や運用に充てられるスタッフや予算、既存サイトの状況、使用している業務システムなどを整理しておくことが重要です。社内リソースが限られている場合は、必要な機能を標準搭載したプラットフォームを活用する方が、コストと時間を抑えられます。
すでにECサイトを持っている企業であれば、既存サイトをモバイルフレンドリーに改修する方法が現実的です。一方、ECサイト自体を新たに構築する場合は、最初からモバイルファーストを前提としたプラットフォームを選定することで、後から改修するコストを抑えることができます。また、既存システムとの連携実績も、プラットフォーム選定の重要な判断基準になります。
モバイル対応のECサイトがあれば、それをアプリ化することも可能です。そのため、まずはモバイルに最適化されたサイトを完成させることを優先し、アプリはその後、必要に応じて検討するとよいでしょう。
2. 機能を段階的に追加する
まずは商品カタログや発注などの基本機能を備えた状態でリリースすることで、早期に運用を開始し、ユーザーの購買行動や利用状況などのデータを得ることができます。取引先のフィードバックなども参考にし、機能の優先順位をつけながら段階的に追加していきましょう。
優先すべき機能は、取引先の規模や注文の複雑さによって異なります。たとえば、取引先が大企業であれば、承認ワークフローやユーザーの役割に応じたアクセス制御を早期に整える必要があります。また、複数拠点への配送が多い場合は、複数配送先の指定や拠点別の注文管理に対応する機能を追加することが有効です。
最終的には、注文だけでなく請求書のダウンロードや契約情報の管理など、取引に関わるあらゆる手続きを一か所で完結できるB2Bカスタマーポータルへと発展させていくことにより、取引先の利便性と業務効率の両方を高めることができます。
3. 取引先へ導入サポートを提供する
取引先の購買担当者がモバイル環境にスムーズに移行できるよう、導入時のサポート体制を整えることが重要です。具体的には、以下のような取り組みが効果的です。
- 操作ガイドの整備:主要な操作手順をスクリーンショット付きでまとめた資料を用意する。
- チュートリアル動画:文章では伝わりにくい機能を、短い動画で視覚的に説明する。
- オンラインセミナーの開催: 導入直後に取引先向けの説明会を開催し、使い方を直接伝える。
- サポート窓口の設置: 導入初期に疑問やトラブルが生じた際に、メールや電話などで対応できる窓口を整える。
- FAQ(よくある質問)の公開: 取引先が自分で問題解決できるよう、サイト内にFAQページを設置する。
さらに、営業担当者の評価指標に取引先のモバイル定着率などを組み込むことで、現場の営業担当者が積極的にサポートに取り組む体制を整えることもできます。
4. 成果を測定しながら改善する
B2Bモバイルコマースは導入して終わりではなく、運用しながら継続的に改善していくことが重要です。主要なKPI(重要業績評価指標)を定期的に測定し、データに基づいた運用の見直しに取り組みましょう。押さえておきたい主要なKPIは以下の通りです。
- モバイル経由の売り上げ比率:モバイルコマースが売り上げにどの程度貢献しているかを把握できる。
- モバイルでのCVR:CVRが低い場合は、UI設計や商品検索のしやすさなどに改善の余地がある可能性がある。
- 再注文率:アクティブユーザー数やログイン頻度と合わせて確認することで、モバイル購買環境が業務に定着しているかを把握できる。
- 流入経路:検索やプッシュ通知などの経路別に流入数や注文数を測定することで、どの施策が購買につながっているかを把握できる。
- 受注業務にかかるコスト削減:電話やFAXへの対応にかかっていた時間などが、導入前後でどの程度削減されたかを比較する。
B2Bモバイルコマースの導入事例3選
1. エフピコ商事株式会社
エフピコ商事株式会社は、業務用包装資材や容器などを扱うECサイト「パックマーケット」を運営しています。主に飲食店や食品製造現場をターゲットとしたB2Bサービスで、24時間365日いつでも注文が可能です。
モバイルに最適化されたサイトだけでなく、iOSとAndroid向けの専用アプリも提供しており、モバイル端末からの購買体験を強化しています。アプリでは、生体認証によるスムーズなログインや、最新情報を伝えるプッシュ通知など、モバイル特有の機能を活用しています。
2. 株式会社MonotaRO
株式会社MonotaROが運営する「モノタロウ」は、現場向けに2,800万点以上の商品を扱うECサイトです。作業現場で資材が不足した際に、すぐにオンラインから発注したいというニーズに応えるべく、2008年にモバイルサイトを公開しました。
専用のスマートフォンアプリも用意されており、カメラで商品のバーコードを読み取って検索できる機能を提供しています。また、アプリとWeb サイトのカートは自動で同期されるため、PCで作りかけた注文をスマートフォンから続けて完了させることも可能です。
3. 株式会社SynaBiz
株式会社SynaBiz(シナビズ)が運営する「NETSEA(ネッシー)」は、サプライヤーとバイヤーをつなぐB2B仕入れ・卸モールです。サイトだけでなく、iOSとAndroid向けの専用アプリも提供されています。
マーケットプレイスという特性上、扱う商品点数が膨大になりがちですが、モバイルでも見やすいように設計されています。また、仕入れ人気ランキングや季節に合わせたグッズの特集など、興味を引く商品カテゴリーバナーをトップページに配置することで、購買担当者が目的の商品にたどり着きやすい工夫がされています。
まとめ
取引先との接点をモバイルへと広げることは、企業の競争力を維持するうえで欠かせない取り組みです。導入には開発コストや既存システムからの移行など、乗り越えるべき課題もありますが、自社の状況に合った方法を選び、段階的に進めることで、無理なく成果を上げられます。
まずは自社のECサイトのモバイル対応状況を確認し、どの機能から優先的に整備するかを検討するところから始めましょう。取引先の購買担当者にとって使いやすい環境を整えることが、長期的なビジネスの成長につながります。
B2Bモバイルコマースに関するよくある質問
B2Bモバイルコマースとは?
B2Bモバイルコマースとは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を活用して企業間取引を行うことを指します。
モバイルコマースとは?
モバイルコマースとは、モバイル端末を使って、オンライン上で商品やサービスを売買する仕組みのことです。
B2Bモバイルコマースはなぜ重要?
B2Bモバイルコマースが重要な理由は、モバイル端末を活用した購買体験への需要が今後ますます高まっていくと考えられているからです。B2B取引においてもオンライン発注が一般的になりつつあることや、スマートフォンの普及が背景にあります。




