法人向け販路を拡大したい、電話やFAX中心の受発注業務を効率化したいと考える企業にとって、卸売BtoB ECは有力な選択肢です。近年は、法人顧客の購買行動がオンラインへ移行し、商品情報の確認から発注までをオンラインで完結できる環境が求められるようになっています。
経済産業省の統計によると、2024年の日本国内のBtoB EC(企業間電子商取引)市場規模は514.4兆円に達しており、企業間取引のデジタル化は着実に進んでいます。こうした変化を背景に、受発注業務のオンライン化を進める企業が増えています。
本記事では、卸売BtoB ECの意味や仕組みから、導入事例、メリット、構築手順までを紹介します。

卸売BtoB ECとは
卸売BtoB ECとは、メーカーやブランドが小売店や販売代理店などの法人顧客に対して、再販や業務利用を目的とした商品をオンラインで販売する仕組みです。
従来の卸売販売をオンライン化したものであり、企業間取引を効率化する手段として活用されています。
一般消費者向けのBtoC やDtoC(消費者への直接販売)ECとは異なり、取引数量や取引金額が大きく、顧客ごとに異なる価格設定や取引条件に対応できる点が特徴です。また、法人顧客との継続的な取引を前提に運用されるのが一般的です。
卸売BtoB ECの仕組み
メーカーが生産した商品を小売業者に卸売することは、典型的な企業間(BtoB)取引です。その後、小売業者を通じて消費者へ商品が販売されます。また、メーカーから卸売業者(仲買)を経由して小売業者に提供するケースや、メーカーやブランドがECサイトや直営店を通じて消費者に直接販売するケースなど、さまざまな流通形態があります。
卸売BtoB ECでは、こうした企業間取引をオンラインで行います。法人顧客はECサイト上で商品情報の確認や注文ができ、販売企業は顧客ごとの価格設定や取引条件、在庫状況、注文履歴などを一元管理できます。
近年はECツールの進化により、BtoB取引においても、顧客ごとの価格設定や決済条件に柔軟に対応できるようになっています。すでにBtoC ECを運営しているメーカーやブランドであれば、既存のEC基盤を活用することで、追加投資やリスクを抑えながら、BtoBチャネルを拡張できます。
卸売BtoB ECの事例
福助
足袋や靴下、ストッキング、インナーウェアなどを製造販売する福助株式会社は、法人向け卸売ECサイト「福助 卸専門サイト」を運営しています。
同サイトは会員制の卸売ECとして構築されており、取引先は商品検索から発注までをオンラインで完結できます。電話やFAXによる受発注業務の効率化に加え、商品情報を充実させることで、取引先の利便性向上を図っています。
タイヘイ化成
ビニール製品やアクリル製品、ノベルティグッズなどの企画および製造を手掛けるタイヘイ化成株式会社は、法人向けECサイト「モノプロランド」を運営し、オリジナルグッズやOEM製品の受注を行っています。
同社はECサイト上で商品情報や活用方法を発信し、顧客が必要な情報を自ら収集できる環境を整備しました。サイト内のブログ記事を対面営業に利用することで、業務効率化を実現しています。ECサイト経由で法人の新規顧客にもつながっています。
丸冨士
製菓・製パン材料や厨房機械を取り扱う業務用食品卸企業の株式会社丸冨士は、業務用原材料の卸売ECサイト「marustock(マルストック)」を運営し、製菓店やベーカリー、飲食店向けに商品を販売しています。
同社では以前、電話やFAXによる受注が中心で、受発注ミスや属人的な運用が課題となっていました。EC化により受注業務を標準化し、商品情報や価格をオンラインで提供できるようになったことで、業務効率の向上を実現しています。さらに、全国から受注を獲得できるようになり、新たな販路開拓にも成功しています。
キーコーヒー
コーヒーの製造・販売を行う国内大手コーヒーメーカーのキーコーヒー株式会社は、業務用ショップ 「KEY'S TABLE」を運営し、コーヒー豆や関連資材、店舗運営に必要な商品を飲食店や法人向けに販売しています。
同サイトでは、会員ステージに応じて値引き率が変動する割引制度を設けているほか、商品紹介や動画の役立つコンテンツを掲載し、会員企業の利便性向上に取り組んでいます。さらに、コーポレートサイトから本ECサイトに送客することで、見込み顧客の集客にもつなげています。
卸売BtoB ECのメリット
従来、BtoB取引はその複雑さからオンライン化が難しいと考えられ、多くのサプライヤー企業は、ECへの投資に消極的でした。
しかし、デジタルチャネルの普及により、買い手企業の購買行動は大きく変化しています。購入に必要な情報を容易に収集できるようになったことで、購入前の情報収集における売り手企業の影響力は相対的に低下しています。その結果、利便性の高い購買体験が求められるようになりました。
こうした環境変化を背景に、卸売BtoB ECのメリットは広く認識されるようになっています。
購入体験の向上:買い手企業はすでに多くの情報を持っており、購入前に必ず営業担当者から説明を受ける必要性は低下しています。ECサイトは、買い手のニーズに応じて商品や関連コンテンツを提供し、必要な情報へ簡単にアクセスできる環境を実現します。
卸売販売プロセスの自動化:会員登録から受注、決済までをオンライン化することで、FAXや電話、メールによる受発注業務の負担を軽減できます。担当者は定型業務にかかる工数を削減し、営業活動や顧客対応など、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。
ビジネスコストの削減:受注処理や顧客対応を効率化することで、人件費や運用コストの削減につながります。また、注文や問い合わせのオンライン化により、受発注管理にかかる負担も軽減できます。
新規市場への参入:卸売BtoB ECは、これまで接点のなかった小売業者や法人顧客との新たな取引機会を生み出します。オンライン上で新規顧客との接点を構築できるため、販路拡大にもつながります。また、小売業者の顧客基盤や実店舗チャネルへアクセスできることもメリットです。

卸売BtoB ECの構築手順
- 卸売販売チャネルを選択する
- 卸売価格戦略を策定する
- 最低発注数量と金額を設定する
- 柔軟な支払い条件を提供する
- 物流パートナーを利用する
- 顧客が情報収集しやすい環境を整える
- BtoB顧客の維持を重視する
1. 卸売販売チャネルを選択する
卸売販売を始めるには、顧客と接点を持つための販売チャネルが必要です。一般的な手段として、次のような手法があります。
- 会員専用オンラインストア:会員専用のBtoB ECサイトは、オーダーメイド注文、複数の配送先、顧客毎の取引条件など、法人取引特有のニーズに対応できます。
- BtoBマーケットプレイス:Amazon Businessやモノタロウ、アスクルなどのプラットフォームに出品することで、潜在的な買い手企業と接点を持つことができます。ただし、手数料や販売条件の制約があるため、特定のマーケットプレイスへの依存は避け、販売チャネルを多様化することが重要です。
また、展示会などのオフライン施策も依然として重要です。参加者の多いイベントに出展することで、見込み顧客との接点を創出できます。対面でニーズや課題を把握できるため、より精度の高い提案が可能となり、新規顧客の開拓にもつながります。
2. 卸売価格戦略を策定する
適切な卸売価格を設定するには、まず販管費も含めた製品1単位あたりの製造・仕入コストを把握することが重要です。その上で、目標とする利益率を踏まえて販売価格を決定します。例えば、利益率を50%に設定する場合は、コストの2倍を販売価格とする方法が一つの目安になります。
また、ブランド価値やブランドロイヤルティを維持し、販売チャネル間の価格競争を防ぐために、卸売価格と併せて希望小売価格(SRP)を提示することもあります。希望小売価格は小売業者の価格設定や利益計画の参考となるほか、市場における価格の一貫性を保つ上でも役立ちます。
3. 最低発注数量と金額を設定する
一般的に法人取引では注文数量が多くなる傾向があるため、個人向け販売よりも低い単価で販売できる場合があります。一方で、利益率を維持するためには、最低発注数量(MOQ)や最低発注金額(MOV)の設定が重要です。
- 最低発注数量(MOQ)は、1回の注文で購入しなければならない最低数量を指します。
- 最低発注金額(MOV)は、1回の注文で満たす必要がある最低購入金額です。
MOQやMOVを設定する際は、商品の原価や配送コスト、決済手数料などを考慮しましょう。また、新規顧客との取引を始めやすくするために、初回注文に限ってMOQやMOVを低く設定する方法もあります。
4. 柔軟な支払い条件を提供する
多くの法人取引では、現金前払いではなく、掛け売りなどの支払い条件が利用されています。そのため、取引先のニーズに応じた柔軟な支払い条件や決済方法を提供することが重要です。
例えば、納品月の翌月末払いなどの後払い取引に対応できる仕組みを用意することで、買い手企業は既存の経理処理や支払いサイクルに合わせて利用しやすくなります。複数の決済方法を用意することは、顧客利便性の向上にもつながります。
また、後払い取引に対応する場合は、請求書発行や支払い案内メールの送信などを自動化することで、請求業務の効率化を図ることができます。
5. 物流パートナーを利用する
卸売BtoB ECでは、 大量の商品を顧客へ発送する機会も多く、物流体制の整備が重要です。出荷業務の負担が大きい場合は、出荷業務を第三者の物流パートナー(3PL)に業務委託することも検討しましょう。物流パートナーと提携すれば、在庫を倉庫へ預けることで、ピッキングや梱包、発送などの業務を任せることができます。
また、BtoBやDtoCなど販売チャネルが多様化すると、在庫配分が複雑になり、想定外の欠品が発生するリスクも高まります。さらに、チャネルごとに異なる梱包やラベリングへの対応が求められる場合もあります。
そのため、自社運用か外部委託かを問わず、複数チャネルの在庫を一元管理できる仕組みを整備することが重要です。マルチチャネル対応の在庫管理システムを導入することで、欠品や過剰在庫の防止、物流業務の効率化につながります。
6. 顧客が情報収集しやすい環境を整える
卸売BtoB ECでは、顧客が購入を検討する際に必要な情報へアクセスしやすい環境を整えることが重要です。近年は、営業担当者へ問い合わせる前に、Webサイトや業界メディアなどを活用して情報収集を行う企業も増えています。
そのため、商品情報だけでなく、導入事例や利用シーン、よくある質問などのコンテンツを充実させると効果的です。実際の利用企業の声や導入効果といったソーシャルプルーフを提示することで、購入を検討している企業の不安解消や信頼醸成につながります。
また、ECサイトだけでなく、メールマーケティングや展示会、セミナーなど複数のチャネルを組み合わせることも重要です。オンラインとオフラインの両方で顧客との接点を持つことで、認知拡大から商談化までをスムーズに進めやすくなります。
7. BtoB顧客の維持を重視する
法人顧客向けECの成否は、一般消費者向けECの場合以上に、リピート購入や継続的な取引の獲得が欠かせません。継続的な取引関係を維持するには、適切な価格設定と安定した製品供給により、顧客満足度を高める必要があります。
BtoB顧客体験を向上させるには、次のような取り組みが有効です。
- 製品を再販するためのマーケティング情報の提供
- 最新トレンドや消費者の嗜好などの業界知識の共有
- 新製品情報を先行提供し、特別感や期待感を高める
また、価格の安さだけで競争するよりも、手厚いサポートを提供する方が顧客満足度の向上につながる場合があります。特に、在庫不足や配送ミスなどの問題が発生した際には、迅速かつ誠実に対応することが重要です。トラブル時の対応が評価されることで、かえって取引先との信頼関係が強化されることもあります。
まとめ
卸売BtoB ECは、受発注業務のオンライン化だけでなく、顧客ごとの価格設定や支払い条件への対応、継続的な顧客関係の構築など、企業間取引特有の要件に対応するための仕組みです。
近年は買い手企業の購買行動が変化し、オンラインでの情報収集やセルフサービス型の購買体験が求められています。そのため、顧客ニーズに応じた情報提供や取引環境の整備が重要になっています。
また、BtoB取引には顧客別価格や掛け売りなど、BtoC ECにはない要件もあります。Shopifyのようなプラットフォームを活用すれば、複雑で高額な独自開発を行わなくても、こうした機能を段階的に導入できます。
自社の顧客や商流に適した卸売BtoB ECを構築し、継続的な改善を重ねることが、長期的な事業成長につながるでしょう。
卸売BtoB ECのよくある質問
卸売BtoB ECとは?
卸売BtoB ECとは、メーカーや卸売業者が小売店や法人顧客に対して商品を販売するためのECサイトです。顧客ごとの価格設定や掛け売り、再注文機能など、企業間取引に必要な機能を備えています。
卸売に最適なプラットフォームは?
卸売向けのECプラットフォームには、Shopifyをはじめ、さまざまなサービスがあります。また、法人向けECモールを活用する方法もあります。必要な機能や予算、既存システムとの連携要件は企業によって異なるため、自社のビジネスモデルに合ったプラットフォームを選ぶことが重要です。
卸売BtoB ECはShopifyで構築できる?
はい。Shopifyには、顧客ごとの価格設定や支払い条件の管理、法人アカウント管理など、BtoB取引向けの機能が用意されています。BtoB専用サイトとしても、BtoCと併用した運用も可能で、事業成長に応じて柔軟に機能拡張できます。
卸売BtoB ECの備えるべき機能は?
卸売BtoB ECには、顧客ごとの価格設定や取引条件の管理、掛け売りなどの決済機能が求められます。また、再注文や注文履歴の確認といったセルフサービス機能、ERPや販売管理システムとの連携機能も重要です。これらの機能を備えることで、顧客利便性の向上と業務効率化を両立できます。




