複数の国への事業展開を目指す日本企業にとって、ヨーロッパは有力な市場のひとつです。日本とヨーロッパは経済や文化の長年にわたる交流があり、現在も多くの日系企業がヨーロッパ市場で事業を展開しています。また、27の加盟国からなる欧州連合(EU)は、約4億5千万人の人口を抱える経済圏を形成しています。
ヨーロッパ進出には、輸出による販売開始から、現地法人や拠点を設立した本格的な事業展開まで、さまざまな形態があります。
本記事では、日本企業がヨーロッパ市場へ進出する際の参入形態、メリットや注意点、必要な規制対応、現地拠点の設立手順について紹介します。

ヨーロッパ市場への参入形態
ヨーロッパ市場への参入方法は一つではありません。海外展開の経験や投資余力などを踏まえ、 自社に適した参入形態を選択することが重要です。
ヨーロッパへの輸出
最も始めやすいのは、日本に事業拠点を置いたままヨーロッパへ商品を輸出する方法です。既存の国内向けビジネスに海外販売を加えることで、比較的少ない初期費用で販路を拡大できます。また、海外向けのウェブサイトやマーケティング施策を展開し、現地の顧客ニーズに合わせた販売戦略を実行できます。グローバルECサイトを構築して越境ECで直接販売する方法や、海外販売に対応したマーケットプレイスに出品する方法があります。日本からEU+英国への輸出額は約12兆円(2025年)で国別では、ドイツ、英国、オランダが上位3カ国となっています(外務省資料)。
日本商社の活用
グローバルなネットワークを持つ日本の商社を通じて、ヨーロッパ市場へ商品を販売する方法もあります。商社の販売チャネルや輸出入のノウハウを活用できるため、自社で現地の販売体制を構築する負担を抑えられます。海外展開の経験が少ない企業や、現地の販売先を開拓したい企業に適した方法です。
現地企業との業務提携
現地企業と業務提携することで、提携先が持つ販売チャネルやフルフィルメントパートナー、市場情報、法務や規制に関する知見を活用し、自社だけで進出するより早期に体制を構築できます。販売代理店契約を結ぶ場合は、営業活動や輸入手続きなどを任せられるため、新規市場への参入を効率的に進めやすくなります。
ライセンス供与とフランチャイズ
自社ブランドやサービスモデルなどの知的財産をライセンス供与したり、フランチャイズ展開したりする方法です。現地企業が事業の運営主体となるため、多額の初期投資を行うことなく市場を拡大できます。契約内容に応じて、ライセンス料やフランチャイズ料などのロイヤリティ収入を得られます。
現地チームを構築
現地法人を設立せずに、ヨーロッパで事業を支えるチームを構築することもできます。例えば、海外雇用代行サービス(EOR)や非居住者給与モデル(NRP)を活用すれば、現地の法令や雇用制度に対応しながら人材を採用でき、市場調査や営業活動、顧客サポートなどを現地の事情に精通したスタッフに任せられます。
海外拠点の設立
将来的な事業拡大を見据える場合は、現地法人や支店などの設立を検討します。EUにおける日系企業の拠点数は6,770(2024年10月時点)で、年を追うごとに着実に増加してきました(外務省資料)。現地に拠点を構えることで、営業やサポート体制を強化し、顧客や取引先との関係を構築しやすくなります。一方で、法人設立手続きや人材採用などに伴うコストやリスクも増加します。進出前に、市場規模や事業計画を踏まえ、メリットとデメリットを十分に検討することが重要です。

ヨーロッパ進出のメリットと注意点
ヨーロッパ進出のメリット
高付加価値市場へ参入できる
ヨーロッパには所得水準が比較的高い国が多く、高品質な製品やサービスに対して確実な需要が存在します。日本企業が持つ品質や技術力、ブランド力を活かし、付加価値の高い製品やサービスを展開しやすい点が魅力です。
多様な市場から最適な進出先を選べる
ヨーロッパには経済規模や文化、言語、消費者ニーズの異なる国々が存在します。そのため、自社の商品やサービス、ブランド戦略に適した進出先を選択できます。
EU市場を活用して複数の国へ展開しやすい
EU加盟国では、製品規格や制度の共通化などを通じて、物品やサービスの移動などを円滑にする共通市場が整備されています。一つの加盟国を拠点として、他のEU加盟国へ事業を展開しやすい仕組みが整っています。
物流や運営を効率化しやすい
EU域内では国境を越えた物流ネットワークが発達しているため、複数の国へ効率的に商品を供給できます。事業規模の拡大に合わせて配送や在庫管理を最適化しやすく、運営コストの削減につながります。
ヨーロッパ進出の注意点
多様な言語や文化に対応する
ヨーロッパにはEU加盟国だけでも24の公用語があり、国ごとに文化や商習慣、消費者の価値観も異なります。そのため、製品やサービスをそのまま展開するのではなく、ウェブサイトや商品情報を翻訳し、マーケティング施策も現地市場に合わせてローカライズすることが重要です。
規制や法令を遵守する
ヨーロッパへ進出する際は、EU共通ルールに加えて、進出先の国や地域の法令も遵守しなければなりません。税制や輸出入に関する手続き、雇用や労働に関する法令などは国ごとに異なるため、事前に確認しておく必要があります。ECサイトを運営する場合は、一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする個人情報保護やデータ管理に関する規制への対応も重要です。また、医薬品や食品、金融など業種固有の規制が適用される場合もあります。
雇用制度の違いを理解する
現地法人を設立して事業を展開する場合は、雇用制度の違いに注意が必要です。雇用契約や解雇手続き、退職金制度は国によって異なります。また、従業員保護に関する法制度が整備されている国も多く、現地の法令を十分に理解せずに採用や労務管理を行うと、予期せぬトラブルにつながる可能性があります。
制度や経済圏の違いを確認する
ヨーロッパにはEUのほかにも、欧州経済領域(EEA)や欧州自由貿易連合(EFTA)など、複数の経済圏や協定があります。また、EU加盟国であっても、ユーロを導入していない国やシェンゲン協定に参加していない国も存在します。進出先の制度を確認する際は、EUだけではなく、これらの経済圏や協定についても把握しておくことが重要です。

ヨーロッパ進出における主な規制上の考慮点
一般データ保護規則(GDPR)
一般データ保護規則(GDPR)は、欧州経済領域(EEA)の個人データを保護するための法令です。EEAに居住する個人を対象に商品やサービスを提供する企業には、所在地にかかわらず適用される場合があります。ECサイトでは、会員登録や注文、メールマガジンの登録などで個人情報を取得するため、その取得や利用、保管方法がGDPRに準拠している必要があります。
所得税
ヨーロッパでは、法人所得税率が国によって異なり、ハンガリーの9%からマルタの35%まで幅があります。現地法人を設立する場合は、税率だけでなく、恒久的施設の有無や租税条約なども含めて、進出先の税制を確認することが重要です。また、駐在員や現地従業員など個人の所得課税についても、各国の制度や租税条約によって取り扱いが異なります。
関税・輸入関連の税金
輸入時に課される関税や物品税などは、商品の種類や原産国、輸入国によって異なります。また、一部の商品にはEU域内でも追加の規制や個別の課税が適用される場合があります。販売する商品の分類や原産地規則を確認し、必要な手続きや費用を把握しておくことが重要です。
労働関連法規
現地で従業員を雇用する場合は、EUの労働者保護に関する基本ルールに加え、進出先の労働法も遵守しなければなりません。雇用契約や労働時間、最低賃金、休暇制度、解雇手続きなどは国ごとに異なるため、採用前に現地の制度を確認し、必要に応じて専門家の支援を受けることが望ましいでしょう。
付加価値税(VAT)
多くの国で付加価値税(VAT)が採用されています。VATは商品やサービスの流通段階で課税される仕組みで、税率は国や商品の種類、サービスの内容によって異なります。越境ECでは、販売先や取引規模などの条件によってVATの登録や申告が必要になる場合があります。EUではワンストップショップ(OSS)制度など、複数国への販売に対応する仕組みも整備されています。
製品の要求事項
EUおよび各国では、消費者向け製品の安全性や品質に関する基準が定められています。製品によっては、CEマーキングなどの適合性評価や表示義務が求められる場合があります。販売する製品に適用される規制を事前に確認し、必要な認証や表示、技術文書などを準備したうえで販売を開始する必要があります。

現地拠点を設立してヨーロッパへ進出する手順
1. 進出先の国を選定する
ヨーロッパで現地法人を設立する場合は、まず本拠地となる国を決定します。法人税率だけでなく、市場規模や必要な人材の確保しやすさ、物流インフラ、設立手続きのしやすさ、外資系企業向けの優遇制度などを総合的に比較し、自社の事業に適した国を選択しましょう。
投資に関する制度や環境は国によって異なるため、日本貿易振興機構(JETRO)の国や地域別情報などを参考にするとよいでしょう。
2. 法人設立・各種登録を行う
進出先を決めたら、各国の法令に従って法人設立や必要な登録手続きを進めます。法人設立の手続きはEU全体で統一されているわけではなく、国ごとに必要書類や申請方法が異なります。
また、EU加盟国で輸出入を行う場合は、事業者登録識別番号(EORI)の取得が必要です。事業内容によっては、付加価値税(VAT)の登録も求められるため、あわせて確認しておきましょう。
3. 製造・物流体制を計画する
事業開始後の安定した運営に向けて、製造や物流を含めたサプライチェーン体制を計画します。初期費用だけでなく、長期的な物流コストや在庫管理、配送リードタイムなども考慮することが重要です。
販売規模が拡大する場合は、ヨーロッパ域内に製造拠点や物流倉庫を設けることで、配送効率やコストの最適化が期待できます。日本から輸出する場合でも、取扱量によっては現地倉庫を利用した方が効率的なケースがあります。
4. 人材を確保する
現地で事業を展開するには、人材の確保が重要です。現地法人で直接雇用する方法のほか、雇用代行サービス(EOR)を利用する方法や、業務内容に応じて外部の専門人材へ業務を委託する方法があります。事業規模や採用計画に応じて、それぞれの特徴を比較し、自社に適した雇用形態を選択しましょう。
5. 法令遵守の体制を整える
ヨーロッパでは、EU共通の規制に加え、各国独自の法令や制度も遵守する必要があります。事業開始後も法改正や制度変更が行われるため、継続的に情報を収集し、コンプライアンス体制を維持することが重要です。
基本的な情報収集にはJETROのウェブサイトを活用できるほか、海外展開相談会や中小企業基盤整備機構(中小機構)の海外展開ハンズオン支援、各地の商工会議所などの公的支援制度も利用できます。必要に応じて、現地の法律事務所や会計事務所などの専門家へ相談することも有効です。
6. マーケティング戦略を策定する
ヨーロッパ市場では、進出する国やターゲット顧客に合わせてマーケティング戦略を最適化する必要があります。既存の広告や販促施策を活用するほか、多言語によるSEOやコンテンツマーケティングを展開する方法もあります。
ECサイトでは、言語や通貨だけでなく、配送方法や決済手段なども現地市場に合わせてローカライズすることが重要です。さらに、商品説明やブログなどのコンテンツも現地向けに最適化することで、集客効果の向上が期待できます。
7. 国際取引に対応したECプラットフォームを活用する
ヨーロッパ市場へ効率よく進出するには、海外販売に対応したECプラットフォームを活用すると効果的です。例えば、Shopify(ショッピファイ)の「Shopify Markets」を利用すると、市場ごとの言語や通貨の設定、関税や輸入税への対応などを一元管理でき、複数の海外市場への展開を効率化できます。
ヨーロッパ進出に関するよくある質問
ヨーロッパ進出に当たり考慮すべきことは?
ヨーロッパへ進出する際は、市場やターゲット国の選定に加え、税制や付加価値税(VAT)、GDPRなどのデータ保護規制、製品安全基準、労働法などを確認することが重要です。また、言語や文化に合わせたローカライズに加え、物流体制やサプライチェーンの構築も事前に検討しましょう。
ヨーロッパでは環境への取り組みはどの程度重視される?
ヨーロッパでは、環境負荷の低減や持続可能性への配慮が企業活動全体で重視されています。製品だけでなく、原材料の調達方法や製造工程、包装材、物流まで環境への影響が評価されることも少なくありません。環境への取り組みは、法令への対応に加え、ブランド価値や競争力を高める重要な要素と考えられています。
ヨーロッパでは人権やサプライチェーンへの配慮も必要?
近年は、人権尊重や責任ある調達を重視する動きが強まっており、サプライチェーン全体で労働環境や人権への配慮が求められています。企業には、自社だけでなく取引先も含めたリスク管理や情報開示が求められる場合があり、こうした取り組みは企業評価や取引機会にも影響を与える重要な要素となっています。
中堅、中小企業のヨーロッパ進出成功事例はある?
食品や伝統工芸など、和の強みを持つ中小企業にも、ヨーロッパ市場でビジネスチャンスがあります。具体的には、豆腐や漆器などの企業例がJETROのウェブサイトで紹介されています。また、ニッチな分野(ゴムクローラー式運搬車)で勝負する製造業がヨーロッパに販路を拡大した例も紹介されています。




