はじめに
「BOPISという言葉は聞くようになったが、自社で導入する価値があるのか判断できない」
「店舗とECの在庫を統合しないと始められないと言われ、どこから手をつけるべきか見えない」
「導入企業の話を読んでも、現場のオペレーションがどう変わるのかがイメージしづらい」
EC責任者、店舗運営の責任者、IT部門の担当者から、こうした声をよく耳にします。
BOPIS(Buy Online Pickup In Store)は、オンラインで購入した商品を店舗で受け取る仕組みを指します。
シンプルに見えますが、実態は「ECサイトの機能を一つ追加する」だけでは成立しません。
店舗の在庫情報をECとリアルタイムに連動させ、注文を店舗側で処理するワークフローを設計し、顧客が来店した際にスムーズに受け渡せる導線まで含めて初めて、ひとつの体験として機能します。
裏側では、POS・在庫管理・注文管理・店舗オペレーション・顧客通知の設計を、横串で揃える必要があります。
国内でもアパレル・コスメ・スポーツ用品・ホームセンター・家電量販といった業種を中心に取り組みが広がってきました。
送料無料の代替として打ち出されるケース、店舗側の集客装置として位置づけられるケース、店舗・EC双方の在庫回転を改善する手段として導入されるケースなど、目的は事業者によって異なります。
ただし、目的が曖昧なまま機能だけを実装すると、店舗オペレーションの負荷だけが増え、顧客にも訴求しきれないという結果になりがちです。
最初の設計を誤らないことが、BOPISを成果につなげる前提条件になります。
本記事では、BOPISの定義、関連用語との違い、メリット・デメリット、導入時に直面しやすい運用課題、実装のステップ、POSや在庫管理との連携、Shopify POSなど代表的なツールの位置づけまで解説します。
目次
-
BOPISとは|定義と関連用語の整理
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BOPISが広がる背景|市場と消費者行動の変化
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BOPISの5つのメリット
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BOPISの4つのデメリットと運用課題
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BOPIS導入で押さえるべき5つの構成要素
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BOPIS導入の7ステップ
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BOPIS導入で陥りがちな5つの落とし穴
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ShopifyによるBOPIS実装の考え方
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まとめ
【無料相談】貴社の店舗・EC統合とBOPIS導入をご一緒に整理します 店舗とECの在庫一元化、注文管理の設計、Shopify POSによるBOPIS実装の進め方について、Shopifyの専門家が無料でご相談を承ります。貴社の規模・チャネル構成に合わせた個別のご提案も可能です。
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1. BOPISとは|定義と関連用語の整理
BOPIS(Buy Online Pickup In Store)は、顧客がオンラインで商品を購入し、実店舗で受け取る購買モデルを指します。
「Buy Online(オンライン購入)」と「Pickup In Store(店舗受け取り)」を組み合わせた略語で、ECサイト上で決済まで完結したうえで、商品の受け渡しは店舗で行うのが基本形です。
国内では「店舗受け取り」「店頭受け取り」「ストアピックアップ」と呼ばれることもあります。
オンラインで購入を済ませた顧客が来店し、レジまたは専用の受け取りカウンターで商品を受け取る、という体験が一般的な流れになります。
1-1. BOPISの基本フロー
BOPISの典型的な購買フローは、次のようになります。
-
顧客がECサイトで商品を選び、「店舗で受け取る」を選択
-
在庫がある店舗を選び、注文・決済を完了
-
店舗側に注文情報が連携され、スタッフが商品をピッキング
-
商品準備が完了した時点で顧客にメール・SMS等で通知
-
顧客が店舗を訪れ、本人確認のうえ商品を受け取る
このフローを成立させるためには、ECサイト・在庫管理・注文管理・店舗オペレーション・顧客通知が一連の流れとしてつながっている必要があります。
注文情報が店舗に正しく届かない、在庫の表示と実在庫がずれている、ピッキング担当が決まっていない、といった点のいずれかが崩れると、現場の混乱や顧客の離反につながります。
1-2. BOPISとBuy Online Pickup In Storeの関係
「BOPIS」「Buy Online Pickup In Store」「店舗受け取り EC」は、いずれも同じ概念を指す表現です。
検索する立場や業界によって使われる語が異なるだけで、意味としては同一です。
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表現 |
補足 |
|---|---|
|
BOPIS |
米国小売業界・EC業界で広く使われる略語 |
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Buy Online Pickup In Store |
BOPISの正式名称、欧米で一般的 |
|
店舗受け取り |
日本国内で使われる平易な表現 |
|
店頭受け取り |
同上、店舗を「店頭」と呼ぶ業態で使われがち |
|
ストアピックアップ |
日本のEC事業者が機能名として使うケースが多い |
|
クリック&コレクト(Click & Collect) |
欧州で広く使われる表現、BOPISとほぼ同義 |
本記事では、検索の主流である「BOPIS」を中心に表記しつつ、同じ意味の表現もその都度併記します。
1-3. BOPISとBOPACの違い
BOPISと近い概念として、BOPAC(Buy Online Pickup At Curbside)があります。
BOPACは、オンラインで購入した商品を店舗の駐車場・店頭脇で受け取る仕組みです。
コロナ禍で米国を中心に広がり、クルマで来店した顧客が車から降りずに商品を受け取れる体験として定着しました。
国内ではドライブスルー型の店舗や郊外型店舗を持つ業態で部分的に採用が進んでいますが、米国ほどの普及率はまだ見られません。
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概念 |
受け取り場所 |
主な業態 |
|---|---|---|
|
BOPIS |
店内のレジ・専用カウンター |
アパレル、コスメ、家電、ホームセンター等 |
|
BOPAC |
店舗の駐車場・店頭脇 |
食品スーパー、ホームセンター、ファストフード等 |
BOPISの設計を考える際に、自社の業態によってはBOPACも含めて検討範囲に入る場合があります。
1-4. BOPISとオムニチャネル・OMOの関係
BOPISは、オムニチャネルやOMO(Online Merges with Offline)という上位概念の中で、最も典型的に語られる実装パターンの一つに位置づけられます。
オムニチャネルは、店舗・EC・SNS・コールセンターといった顧客接点を統合し、チャネルを意識させない一貫体験を提供する戦略を指します。
OMOは、オンラインとオフラインの境界を前提とせず、顧客の購買体験を一気通貫で設計する考え方です。
BOPISは、これらの戦略を顧客視点で具体化したサービス形態の一つです。
「ECで買って店舗で受け取れる」というシンプルな体験は、店舗とECが裏側で統合されていなければ実現できないため、自社のオムニチャネル成熟度を試金石的に映し出すサービスになります。
逆に言えば、BOPISを導入するプロセスそのものが、オムニチャネル・OMO化に必要な要素を浮き彫りにする取り組みになります。
2. BOPISが広がる背景|市場と消費者行動の変化
BOPISは、海外では2010年代後半から本格的に普及し始め、コロナ禍を経て一気に主流の購買体験の一つになりました。
国内でも遅れて広がりつつあります。
ここでは、なぜBOPISが拡大しているのかを、市場と消費者行動の両面から整理します。
2-1. EC化の進展と店舗の役割転換
経済産業省の調査によると、日本のBtoC-EC市場規模は2023年時点で物販系が14兆6,760億円(約14.7兆円)、EC化率は9.38%まで拡大しています(出典:経済産業省『令和5年度 電子商取引に関する市場調査』2024年)。
EC化率は今後もゆるやかに上昇する見通しで、店舗側は「ECに奪われる側」ではなく「ECと連動する側」へと役割を転換せざるを得なくなっています。
店舗が単なる販売の場から、ブランド体験・接客・受け取り・返品・顧客データ収集の場へと意味を広げるなかで、BOPISは店舗の役割転換を象徴するサービスとして位置づけられています。
2-2. 送料・配送への意識の変化
ECの利用が日常化したことで、配送リードタイムや送料に対する消費者の感度は高まっています。
一方で、宅配便の人手不足や配送コストの上昇により、送料無料を維持することが事業者側にとって難しくなってきました。
BOPISは、「送料を払いたくない」「すぐに受け取りたい」「再配達を避けたい」というニーズに応える受け取り手段として、消費者・事業者の双方にメリットを生みます。
特に、近隣に対象店舗を持つ顧客にとっては、配送日程を気にせず仕事帰りや買い物ついでに受け取れる点が支持されています。
2-3. 海外でのBOPIS普及
米国では、BOPISは大手リテーラーを中心に標準機能として定着しました。
大規模な店舗網を持つ総合小売チェーンや、ホームセンター、食品スーパーといった業態を中心に、BOPIS・カーブサイドピックアップが標準的な購買オプションとして提供されています。
米国国勢調査局の小売EC統計を見ても、店舗を持つ事業者のECは安定して拡大しており、店舗とECを行き来する購買行動が一般化しています(出典:U.S. Census Bureau “Quarterly Retail E-Commerce Sales”)。
欧州でも「Click & Collect」という名称で広く普及しており、特に英国・フランス・北欧では食品スーパー・ファッション・家電量販を中心に主流の受け取り手段の一つになっています。
国内事業者にとっては、海外の先行事例から運用ノウハウや失敗パターンを学べる段階にあると言えます。
2-4. 国内での広がり
国内でも、アパレル・コスメ・スポーツ用品・ホームセンター・家電量販といった業種を中心にBOPISの導入が進んでいます。
実店舗網を持つ既存リテーラーが、店舗の集客装置として位置づけるケース。
D2Cブランドが、ポップアップ店舗との組み合わせで体験設計に組み込むケース。
家電量販店・ホームセンターが、当日受け取りニーズに応えるサービスとして展開するケース、と打ち出し方は多様です。
日本では、コンビニ受け取り・宅配ボックス・置き配といった「店舗以外の受け取り選択肢」も発達しているため、BOPISを単独で打ち出すよりも、自社の店舗網と相性のよい顧客層に絞って展開する設計が成果を出しやすい傾向があります。
3. BOPISの5つのメリット
BOPISが事業者と消費者の双方に受け入れられている背景には、明確なメリットがあります。
ここでは事業者・顧客の視点で代表的な5つを解説します。
3-1. 送料コストの圧縮
BOPISでは、店舗在庫を顧客自身が引き取る形になるため、宅配便での個別配送が発生しません。
事業者にとっては送料コストを丸ごと圧縮できる選択肢になります。
特に客単価が比較的低い商材では、送料がEC収益を圧迫しているケースが多く、BOPISを「送料無料の代替手段」として位置づけることで、利益率の改善につながります。
3-2. 当日・即日受け取りニーズへの対応
宅配便での配送は、最短でも翌日配送が中心です。
BOPISでは店舗在庫があれば、注文当日に受け取れます。
「今夜のイベントに使いたい」「子どもの学校行事で明日までに必要」といった当日ニーズに応えられる点は、競合との差別化要因になります。
EC比率が高い業種でも、即日受け取りニーズを取りこぼしている事業者は少なくありません。
3-3. 店舗集客と追加購入の誘発
顧客が商品の受け取りで来店した際、ついでに別の商品を購入する確率は無視できません。
BOPISを大規模に展開している海外リテーラーの公開コメントでも、受け取り来店時の併売(追加購入)が一定の水準で発生していると言及されることが多くあります。
国内でも、BOPISを導入した小売事業者から「受け取り来店時の併売が一定割合で発生する」という報告が共有されるようになってきました。
店舗の集客装置として位置づけられる点は、店舗網を持つ事業者にとって重要なメリットです。
3-4. 顧客の購入意思決定のハードルを下げる
ECサイトでの購入時、「サイズが合わなかったらどうしよう」「思っていた色と違ったらどうしよう」という不安は、購入の躊躇要因になります。
BOPISでは、店舗で実物を確認したうえでその場で受け取れるため、サイズ・色味の確認や試着がしやすくなります。
「ECで予約だけして、店舗で確認してから持ち帰る」という新しい購買モデルとして定着しつつあります。
これによりカゴ落ち(カートに商品を入れたものの購入に至らないこと)の削減にもつながります。
ベイマード・インスティテュートの調査によると、ECの平均カゴ落ち率は70%前後と高い水準が続いています(出典:Baymard Institute “Cart Abandonment Rate Statistics”)。
「店舗で受け取れる」という選択肢は、購入のハードルを下げる要素になります。
3-5. 在庫の店舗・EC間での回転改善
BOPISを導入すると、ECの注文を店舗在庫から引き当てる運用が可能になります。
これにより、店舗で売れ残っていた在庫がECチャネル経由で動くようになり、店舗とECの間で在庫の偏りを平準化できます。
特定店舗の在庫消化を促進したい場合、その店舗にECの注文を集約することで、商品マスターの整理・期末在庫の圧縮にも寄与します。
物流コストを上げずに在庫の流動性を高められる点は、CFO・経理部門の関心とも一致しやすいメリットです。
4. BOPISの4つのデメリットと運用課題
BOPISはメリットの大きい施策ですが、導入後にうまく機能していない事例も少なくありません。
ここでは、導入前に押さえておきたい代表的なデメリットと運用課題を解説します。
4-1. 店舗オペレーション負荷の増加
最初に直面する課題は、店舗側のオペレーション負荷です。
ECの注文を受けた店舗スタッフは、店舗業務と並行して以下のタスクを担う必要があります。
-
注文確認とピッキング
-
商品準備の進捗管理
-
受け取り時の本人確認・引き渡し
-
顧客への進捗通知の運用
-
受け取り期限切れ商品の戻し作業
繁忙時間帯の負荷を見越して、人員配置・タスク優先順位・専用端末の配置を設計しておかないと、店舗スタッフの疲弊と接客品質の低下を招きます。
特にアパレル・コスメのように、接客対応が売上に直結する業態では、BOPIS対応によって接客時間が削られないように設計することが重要です。
4-2. 在庫情報のずれによる欠品リスク
BOPISの最大の運用課題は、店舗在庫の正確性です。
EC側で「在庫あり」と表示された商品が、実は店舗の棚で売れていた・破損していた・返品処理中だった、といった理由で実在庫がないと、顧客との約束を果たせなくなります。
カゴ落ちの主要因の一つに「予期せぬ事象」がありますが、BOPISで言えば「店舗に行ったのに商品がなかった」が、顧客信頼を最も損ねるパターンになります。
リアルタイム在庫管理、棚卸し頻度の引き上げ、自動補充ロジックの整備など、在庫精度を担保する仕組みづくりが前提となります。
4-3. システム・データ統合のコスト
BOPISを成立させるには、最低限以下のシステム連携が必要になります。
-
ECサイトと店舗POSのリアルタイム在庫連携
-
ECの注文情報を店舗側に転送する注文管理基盤
-
受け取り進捗の管理画面
-
顧客通知のメール・SMS基盤
-
店舗在庫からの引き当てロジック
これらを既存システムで個別に開発しようとすると、初期投資と運用コストが膨らみます。
クラウド型のECプラットフォームとPOSが標準で連携している環境であれば負担は抑えられますが、複数ベンダーのシステムを連携させる場合は、データ連携の設計・テスト・障害対応の体制まで含めて計画が必要です。
4-4. 受け取り未到来・キャンセル対応
注文後、顧客が来店しないケースも一定数発生します。
来店期限を過ぎた商品の取り扱い、自動キャンセル・自動返金の設計、店舗在庫への戻し作業の運用ルールを事前に決めておかないと、店舗側に「動けない在庫」が滞留する事態が起きます。
来店期限の通知頻度、再注文を促す導線、キャンセル時の手数料の有無といった顧客コミュニケーションの設計も、運用品質を左右します。
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5. BOPIS導入で押さえるべき5つの構成要素
BOPISを単なるEC機能の追加で終わらせず、事業成果につなげるためには、以下の5つの構成要素を統合的に設計する必要があります。
5-1. 在庫管理の一元化
最初に揃えるべきは、店舗とECの在庫情報をリアルタイムで同期できる基盤です。
複数店舗・倉庫・ECの在庫を一つのマスターで管理し、販売・入荷・返品・移動の動きを瞬時に反映させる仕組みが前提になります。
POSシステムやEC、在庫管理システム、OMSのいずれかが在庫マスターを保持し、他システムと整合する設計が一般的です。
業種・規模によって最適解は異なりますが、いずれにせよ「在庫の正解は一つ」という状態を作ることが出発点です。
5-2. 注文管理(OMS)の整備
ECの注文を店舗側に振り分け、店舗での処理状況を可視化する注文管理基盤(OMS:Order Management System)が必要になります。
具体的には、以下の機能が求められます。
-
注文の店舗別ルーティング
-
注文ステータス管理(受付・準備中・準備完了・受け渡し済み・キャンセル)
-
店舗スタッフのタスク管理
-
進捗の店舗別ダッシュボード
-
ECシステム・POSとの連携
ECサイト側に簡易なOMS機能が組み込まれているケースもあれば、独立したOMSを導入するケースもあります。
事業規模・チャネル数・将来の拡張余地に応じて選定する必要があります。
5-3. 店舗オペレーションの設計
システム面と並んで重要なのが、店舗側の運用設計です。
-
注文受信を確認するタイミング(朝・昼・夕方等)
-
ピッキング担当のローテーション
-
受け取り場所(レジ・専用カウンター)
-
本人確認の方法(QRコード、受付番号、身分証)
-
受け取り期限と来店促進通知のルール
-
受け取り完了後のアフターケア
店舗ごとにオペレーションがばらつくと、顧客の体験が店舗依存になります。
本部側でガイドラインを定め、店舗教育の段階で標準化しておくことが望まれます。
5-4. 顧客通知・コミュニケーション
BOPISでは、注文から受け取りまでの間に、いくつかの通知が発生します。
-
注文受付完了
-
店舗側で準備中
-
受け取り準備完了(来店可能のお知らせ)
-
来店期限のリマインド
-
キャンセル・返金完了
これらの通知をメール・SMS・LINE・アプリのいずれで届けるかによって、顧客の体験は大きく変わります。
特に「準備完了通知」は、すぐに気づける伝達手段で届けることが、来店率に直接影響します。
通知タイミングと文言は、運用しながら継続的に改善するテーマです。
5-5. 顧客IDの統合
BOPISは、店舗・ECを行き来する顧客の体験を作るサービスです。
顧客IDが店舗・ECで分断されていると、購買履歴・ポイント・会員ランクが連動せず、せっかくの来店データが事業に活かせなくなります。
CDP(Customer Data Platform)やCRMで顧客IDを横串で持つ設計、もしくはECとPOSが同一プラットフォーム上で動作する設計など、自社のシステム構成に合わせて統合方法を選ぶ必要があります。
6. BOPIS導入の7ステップ
BOPISの導入は、システム実装よりも、事業設計・オペレーション設計に時間がかかります。
ここでは、検討開始から本格稼働までの7ステップを整理します。
ステップ1:目的とKPIの設計(期間:2〜4週間)
最初に決めるべきは、「自社にとってBOPISは何のための施策か」です。
-
送料コストの圧縮を狙うのか
-
店舗集客と追加購入の誘発が目的か
-
在庫の店舗・EC間の回転改善か
-
ECのカゴ落ち削減か
-
顧客体験の向上を最重視するか
複数の目的を持ってもよいですが、主目的を一つ決めることで、KPI・対象店舗・対象商品の判断軸が明確になります。
KPIは、BOPIS注文比率、店舗オペレーションコスト、受け取り率、併売率、リピート率といった項目で設計するのが一般的です。
ステップ2:対象店舗・対象商品の選定(期間:2〜3週間)
すべての店舗・全商品をBOPIS対象にする必要はありません。
最初は対象を絞って実証する方が成功確率は高まります。
判断軸の例:
-
商圏が広く受け取り需要が見込める都市部の店舗
-
ECの注文が集中している地域の店舗
-
在庫を持っているSKU数が多く欠品リスクの低い店舗
-
接客負荷が許容範囲内のスタッフ規模
商品も、サイズ・色のバリエーションが多すぎず、本人確認が複雑にならない商材から始めるのが安全です。
ステップ3:システム選定・要件定義(期間:4〜8週間)
ECプラットフォーム・POS・OMS・在庫管理・顧客通知の各システムについて、要件を整理します。
既存システムをどこまで活用するか、新規に導入する範囲はどこかを切り分けます。
ECとPOSが別ベンダーの場合、データ連携の仕様・障害時の運用・更新頻度を明確にしないと、運用開始後の事故につながります。
ステップ4:店舗オペレーションの設計(期間:3〜6週間)
実店舗での運用フロー、ピッキング・引き渡し・期限管理のオペレーションを設計します。
実際の店舗で試験運用しながらフローを磨くと、本番運用のリスクを下げられます。
このフェーズで店舗スタッフを巻き込めるかどうかが、その後の浸透度に大きく影響します。
ステップ5:パイロット店舗での試験運用(期間:4〜8週間)
1〜3店舗を選び、限定的にBOPISを稼働させます。
ECサイトでは特定店舗のみ「店舗で受け取る」オプションを提供し、実運用の負荷・課題を洗い出します。
トラブル・想定外の事象が起きることを前提に、改善ループを早く回せる体制を整えておくことが重要です。
ステップ6:本格展開・拡大(期間:8〜16週間)
パイロットで明らかになった改善点を反映し、対象店舗・対象商品を段階的に拡大します。
店舗教育・マニュアル整備・問い合わせ体制の整備をあわせて進めます。
社内告知・キャンペーン・店頭POPなどによる顧客認知も、本格展開フェーズで重要になります。
ステップ7:定常運用・改善(継続)
稼働後は、KPIを月次・四半期で振り返り、改善を継続します。
-
受け取り率・キャンセル率の改善
-
店舗オペレーションコストの最適化
-
併売率の向上施策(受け取りカウンターでのレコメンド等)
-
通知タイミング・文言の改善
-
対象商品の拡張可否の判断
BOPISは「導入して終わり」ではなく、運用設計と改善が長期にわたって継続する取り組みです。
7. BOPIS導入で陥りがちな5つの落とし穴
BOPIS導入プロジェクトでは、検討段階で軽視されがちなテーマが、稼働後に大きな問題になるケースが多くあります。
ここでは典型的な5つの落とし穴を解説します。
7-1. 在庫精度を後回しにする
「とりあえずBOPISを始めて、在庫精度はあとから整えよう」と進めると、稼働直後から欠品クレームが噴出するリスクがあります。
店舗在庫の棚卸し頻度、リアルタイム連携の遅延、誤計上の発生率は、導入前に把握しておくべき指標です。
在庫精度の改善は、BOPIS以外のオムニチャネル施策の前提でもあり、ここに先行投資する価値は十分にあります。
7-2. 店舗KPIとEC KPIの対立を放置する
BOPISは、ECの注文を店舗在庫から引き当てる仕組みです。
店舗側のKPIが「店舗単独の売上」だけで設計されていると、店舗スタッフからすれば「自分たちの売上を奪うECの注文を捌かされている」という構図になりかねません。
BOPIS注文を店舗の売上にカウントする、店舗評価の指標にECとの合算売上を組み込むといった、評価制度・KPI設計の見直しが必須です。
組織設計の議論を伴わずにシステムだけ整えても、現場のモチベーションは長続きしません。
7-3. 顧客通知を軽視する
準備完了通知が遅れる、来店期限のリマインドが届かない、といった通知運用の不備は、来店率と顧客満足度に直結します。
メールだけに頼ると、顧客の受信環境やフィルタによっては到達しないリスクがあります。
SMS・LINE・アプリ通知など、複数チャネルを組み合わせる設計が安心です。
通知文言は、来店動線をシンプルに伝えるトーンで作る必要があります。
7-4. 受け取り体験の設計を後回しにする
BOPISの体験は、店舗での受け取りシーンが最後の印象を決定づけます。
レジに長時間並ばされる、専用カウンターがどこか分からない、スタッフがBOPIS対応に慣れていない、といった摩擦は、リピート意向を大きく下げます。
専用導線、案内サイン、対応スタッフの教育を、システム実装と同等の優先度で整える必要があります。
7-5. 全店舗一斉展開を狙う
「せっかく仕組みを作ったのだから、初日から全店で展開したい」という発想は理解できますが、運用品質の差が顧客満足度のばらつきを生みます。
特定地域・特定店舗から始め、運用品質を見極めながら段階拡大するアプローチの方が、結果として浸透が早くなる傾向があります。
短期的な広がりよりも、運用の安定性を優先する判断が中長期では有利に働きます。
8. ShopifyによるBOPIS実装の考え方
最後に、Shopifyを軸にBOPISを実装する場合の考え方を整理します。
事業者が選択肢を比較検討する際の参考としてご活用ください。
8-1. ShopifyとShopify POSの統合構造
Shopifyは、ECサイト・POS・在庫管理・顧客管理を同一プラットフォーム上で動作させられる構造を持っています。
ECで発生した注文は、Shopify管理画面上でリアルタイムに反映され、店舗POS(Shopify POS)も同じデータベースを参照します。
そのため、別ベンダーのECとPOSをAPI連携させる場合に比べて、在庫情報のずれや連携遅延が起こりにくい設計になっています。
複数店舗・複数倉庫の在庫もShopify管理画面で一元管理でき、ECの注文をどの店舗・倉庫から引き当てるかをルール化できます。
8-2. Shopify POSでのBOPIS機能
Shopify POSは、BOPISに必要な以下のような機能を標準で提供しています(2025年時点の公式情報をベースに解説しています。最新情報はShopify公式サイトでご確認ください)。
-
ECサイト上での「店舗受け取り」オプションの設定
-
店舗別の引き当て可能在庫の表示
-
受け取り注文のステータス管理(受付・準備中・準備完了・受け渡し済み・キャンセル)
-
顧客への自動通知メール
-
店舗スタッフ向けのピッキング・引き渡し画面
-
受け取り期限と自動キャンセル設定
これらを別途開発・調達せずに、Shopifyの標準機能の延長線上で稼働させられる点が、Shopifyの設計思想の特徴です。
8-3. 既存システムとの併用
Shopifyを使う場合でも、既存POSや基幹システムを残したまま運用するケースは少なくありません。
その場合は、
-
Shopify側の在庫情報を「ECの引き当て先」として位置づけ、既存POSが在庫マスターを保持する
-
既存POSのデータをShopifyに同期し、ECの店舗在庫表示として活用する
-
段階的に既存POSをShopify POSに切り替えていく
といった段階的な統合パターンが選ばれます。
事業構造によって最適解は異なるため、Shopify POSへの一気の切り替えではなく、自社の現行システムをどう活かすかから議論を始めるのが現実的です。
8-4. 規模別の選択肢
Shopifyは、Basic・Shopify・Advancedといった月額プランから、エンタープライズ向けのShopify Plusまで、規模に応じた選択肢を提供しています。
Plusは年商目安5億円以上の事業者向けで、マルチストア管理、API利用上限の拡大、Shopify Flowによる自動化、専任サポートといった機能が含まれます(出典:Shopify公式サイト)。
BOPISの導入規模・対象店舗数・カスタマイズの必要性によって、適したプランは変わります。
価格や具体的な機能差は公式サイトおよび担当者への問い合わせで確認することが推奨されます。
8-5. 他社プラットフォームでのBOPIS実装
Shopify以外のECプラットフォームでも、BOPISを実装している事業者は多数あります。
futureshop、ecbeing、ebisumart、Salesforce Commerce Cloud、Magento(Adobe Commerce)などのプラットフォームは、いずれもBOPIS関連の機能を提供しているか、外部システムとの連携でBOPISを実現できる構造を持っています。
事業規模・既存システム・カスタマイズ要件によって最適なプラットフォームは異なります。
複数の選択肢を並列に比較したうえで、自社の事業構造に合うものを選ぶ姿勢が大切です。
まとめ
BOPISは、ECと店舗の境界が薄れていく中で、自然な購買体験として消費者に受け入れられ始めているサービス形態です。
ただし、ECサイトに機能を追加するだけでは成立せず、店舗運用・在庫・顧客通知・組織設計までを横串で整える長期戦になります。
最初の目的設定とパイロット店舗の運用品質が、その後の成果を大きく左右します。
BOPIS成功の5つのポイント
-
目的とKPIを一つに絞る 送料コスト圧縮、店舗集客、在庫回転改善、顧客体験向上のうち、主目的を明確にしてから設計に入ります。
-
在庫精度を最優先で整える リアルタイム在庫連携、棚卸し頻度の引き上げ、引き当てロジックの整備を、BOPIS稼働前に完了させます。
-
店舗オペレーションと評価制度を同時に設計する システムだけでなく、店舗スタッフのタスク・KPI・評価制度を見直し、店舗とECが対立しない構造を作ります。
-
顧客通知と受け取り体験を磨く 準備完了通知のスピード、店舗での導線、スタッフの対応品質を、システム実装と同等の優先度で整えます。
-
パイロット店舗から段階拡大する 1〜3店舗で運用品質を見極め、改善ループを回したうえで、段階的に対象店舗・対象商品を広げます。
最初の一歩を踏み出そう
BOPISは「導入の意思決定」よりも「設計と運用」に重さがある施策です。
最初から完成形を目指すのではなく、主目的を一つ決め、対象を絞り、運用品質を磨きながら段階的に広げる進め方が、結果として早く成果につながります。
自社のオムニチャネル成熟度の試金石としても機能するため、「いまのシステムでどこまでできるか」「どこから補強すべきか」を見立てる議論の起点に位置づけられます。
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参考文献
-
経済産業省『令和5年度 電子商取引に関する市場調査』2024年 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.html
-
Baymard Institute “Cart Abandonment Rate Statistics” https://baymard.com/lists/cart-abandonment-rate
-
U.S. Census Bureau “Quarterly Retail E-Commerce Sales” https://www.census.gov/retail/ecommerce.html
-
Shopify公式サイト https://hk241.xb-11.com/jp




