越境ECとは、国境を越えてオンラインで商品やサービスを売買する、国際貿易の一形態です。
DHLの調査によると、世界の消費者の約59%が越境購入に前向きであり、35%は月に1回以上利用しています。さらに、2032年までに世界の越境EC市場は4兆8,100億ドル(約745兆5,000億円 )以上に成長する可能性があると推定されています。
WOLFpakの創業者マイケル・ヘンダーソンは、「国際販売をしないということは、成長の機会を自ら制限しているようなものです」と述べています。
大きな可能性がある一方で、ECビジネスをグローバルに展開する前には、物流面での課題についても検討する必要があります。本ガイドでは、グローバル市場で成功するための越境EC戦略と、それを効率的に実現するためのヒントやテクノロジーをご紹介します。
越境ECとは
越境ECとは、国境を越えて商品やサービスをオンラインで販売することです。これらの取引は、デジタルプラットフォームやグローバルなオンラインマーケットプレイス、自社のウェブサイト上で行われます。通貨換算に対応した決済処理業者や、各国への配送を担う配送業者によって成り立つ仕組みです。
典型的な越境EC取引の流れは、次のとおりです。
- 海外の顧客がオンラインストアを訪問する
- 現地通貨での価格や配送オプションを確認する
- チェックアウト時に関税が計算される
- 商品が発送され、税関を通過する
- 配送業者が海外の購入者へ商品を届ける
越境ECの主な構成要素
ECビジネスが越境販売を行う際に使用する主な構成要素は、以下のとおりです。
- ローカライズされたストアフロント:ローカライズされたコンテンツやナビゲーション、商品情報に対応したECプラットフォームを選ぶことが重要です。Shopifyの統合データモデルのような統合プラットフォームであれば、地域ごとのストアフロントに関する顧客・注文・在庫データを、1つのシステムで管理できます。
- 多通貨での価格表示:複数の通貨で価格を表示することで、購入時のストレスを軽減し、チェックアウト前に正確な支払額を把握できるようになります。
- 現地の決済方法への対応:統合された決済システムを活用して越境決済を処理します。顧客が現地のウォレットや銀行振込、代金引換(代引き)など、馴染みのある決済方法を利用できるようにすることが重要です。
- 関税・税金の計算:配送時の想定外の負担を防ぐため、総額(着地コスト)を事前に提示します。これにより、予期しないコストによって放棄されるカートの39%を回復できるとされています。
- 越境配送と追跡:信頼できる配送業者や現地の流通パートナーと連携し、国際的なサプライチェーンを強化します。あわせて、配送スケジュールの明確化やエンドツーエンドの追跡情報を提供することが重要です。
- 返品ワークフローの整備:返品対応は自社で行うか、国際返品を効率的に処理できるサードパーティロジスティクスサービス(3PL)に委託します。これにより、コストの予測性を高めることができます。
越境ECのメリット
市場拡大
国際ECは、グローバルな顧客基盤へのアクセスを可能にし、ビジネスが国内市場を超えて新たな顧客にリーチできるようになります。これは、市場シェアの獲得が難しい、高コストである、あるいは不採算になりがちな国内市場の飽和に直面しているビジネスにとって、特に有効です。
多様化とリスク軽減
複数の海外市場で事業を展開することで、特定の市場や経済への依存を減らし、地域や通貨ごとにリスクを分散できます。越境販売は、特定の市場における景気後退の影響を和らげる役割も果たします。
収益拡大の可能性
グローバル市場への進出は、EC売上やビジネス成長の拡大につながる可能性があります。世界の消費者の59%が越境購入を行っていることを踏まえると、その機会は非常に大きいといえます。
また、オンライン消費者の需要が高く競争が比較的少ない地域を開拓することも可能です。さらに、飽和度の低い国際市場では、顧客獲得コスト(CAC)を抑えながら売上を伸ばせる可能性があります。
規模の経済とコスト効率
越境事業を拡大することで、大量調達や物流の効率化、生産の最適化が進み、コスト効率の向上が期待できます。その結果、国内市場のみに依存する場合と比べて、単位あたりのコストを抑え、利益率を高められる可能性があります。
越境ECの課題
オンラインビジネスは国際展開によって大きな恩恵を受けられますが、いくつかの課題も存在します。ECサイトをグローバル市場に展開する際は、以下のような点に注意が必要です。
配送コスト、関税、物流
国際配送には、税関での制限や輸出入規制、配送コストの変動、配送時間の長期化など、さまざまな複雑な要素が伴います。また、小売事業者は、追跡や保証請求、返品対応といった課題にも向き合う必要があり、これらは顧客満足度に影響を与える可能性があります。
特に大きな課題のひとつが、各国の輸入規制への対応です。特定の国で禁止されている商品は、国境で差し止められ、返送される場合があります。
さらに、税務コンプライアンス、とりわけ関税や輸入手数料への対応も大きなハードルです。調査によると、顧客の75%は、予期しない関税や税金に直面するとその小売業者での購入を見直し、49%は配送自体を拒否します。
チェックアウト時に関税を徴収し、政府当局へ納付することも可能ですが、このプロセスは複雑であるため採用されないことも多く、結果として負担が購入者側に転嫁されがちです。こうした問題は、ラストマイル配送(商品が顧客に届く最終段階)で特に顕在化します。
こうした課題を一部軽減する方法として、AliExpressのような国際マーケットプレイスを活用することで、ターゲット国の配送業者とスムーズに連携できます。
💡ヒント:ブランドコントロールや利益率、顧客データを維持したい場合は、SuitShopの事例が示すように、自社の越境ECサイトで販売する方法が有効です。同社はShopifyのManaged Marketsを活用し、国際配送や関税、税金に関する物流を効率的に処理しています。
以前のSuitShopは、返送や関税による遅延、配送トラブルなど、国際注文の約50%で問題を抱えていましたが、Global-eをMoR(最終販売責任を負う商業者)として活用するShopifyの仕組みによって、これらの問題はほぼ解消されています。
通貨と決済の問題
新しい市場に参入する際には、複数の通貨や決済方法、越境取引手数料への対応が追加のハードルとなります。通貨換算レートへの対応から、決済詐欺リスクの増加まで、さまざまな課題に対処する必要があります。
越境ビジネスに取り組む際は、安全な国際取引を確保しつつ、国ごとに異なる決済の好みに対応する必要があります。具体的には、以下のような対応が求められます。
- デジタルウォレットや後払い(BNPL)など、現地で一般的な決済方法への対応
- 越境取引手数料や外国為替(FX)市場の変動への対応
- 可能な限り現地で決済処理を行うことで、決済拒否のリスクを低減
ShopifyのManaged Marketsでは、市場の為替レートに基づいて自動の通貨換算機能が提供されています。また、各国の市場に応じて価格の端数処理ルールを設定してリ、現地の決済方法(たとえばベルギーの顧客向けのBancontact)を有効化したりすることも可能です。
規制と法的コンプライアンス
国ごとに異なる法的枠組みや税制、データプライバシー規制、貿易制限に対応するには、多くの時間と労力がかかります。
たとえば、外国政府が、企業と個人の間で行われるオンライン販売と、個人同士の越境取引とで、それぞれ異なる規制を設けている場合があります。
また、一部の国では、ECビジネスに対して特有の要件が課されています。たとえば、英国、オーストラリア、ノルウェーでは、国外の販売者に対して、自国の管轄内での税登録や申告を義務付けています。
このような複雑さに対応するためには、新しい市場の法律や商習慣に詳しい現地の専門家を起用する必要があるケースも少なくありません。これにより、各国でのコンプライアンスを確保しつつ、円滑な事業運営が可能になります。
言語と文化の違い
他国の新しい市場に参入するうえで重要なのは、現地の嗜好や価値観、文化を理解することです。この理解は、マーケティングやカスタマーサポート、ECプラットフォーム上の商品説明などに反映させる必要があり、場合によっては複数言語での対応も求められます。
そのためには、専門の代理店や、Shopify MagicのようなShopifyの組み込みツールやアプリの活用が有効です。ただし、ローカライズしたコンテンツは公開前に必ず人間の編集者や翻訳者が確認することが重要です。
まずは、ユーザー体験の中でも特に影響の大きい部分からローカライズを始めましょう。たとえば、売れ筋コレクションや主力SKUの商品詳細ページ、チェックアウトのフローなどが挙げられます。これらは、コンバージョンや収益に大きな影響を与える可能性があります。
さらに、これらの重要なページでA/Bテストを実施し、ローカライズしたバージョンとそうでないバージョンを比較することも有効です。これにより、好まれる表現や現地特有の言い回しといったニュアンスを把握し、他のページや訪問者対応にも活かすことができます。
顧客の信頼とブランドアイデンティティ
買い物客が新しいブランドに慣れるまでには、時間がかかります。特に越境購入では、カスタマーサポートや返品、返金、保証請求に関する対応が複雑になりがちで、これらは顧客の信頼やロイヤルティに影響を与える可能性があります。
越境ECで成功する方法
越境ECが自社ビジネスに適しているか評価する
越境ECにはさまざまな複雑さが伴うため、事業拡大がすべてのビジネスにとって常に最適とは限りません。
将来的にグローバル展開を目指している場合でも、タイミングは重要です。準備が整う前に参入すると、海外の顧客に誤った第一印象を与えてしまう可能性があります。
そのため、以下を自問して準備状況を評価しましょう。
- 自社の製品は国際販売に適しているか
- 既存の国際トラフィックはあるか
- 関税や税金、配送などの追加コストを考慮したうえで、利益率と平均注文額(AOV)は国際展開を支えられるか
- 返品、サポート、ローカライゼーションを含む国際業務を管理する体制は整っているか
- 越境販売に必要な規制の複雑さに対応できるか
市場調査を実施し、ターゲティングを洗練させる
既存のデータを活用して、どの地域がすでに自社ビジネスに関心を持っているかを確認しましょう。
Shopify Analyticsを使えば、どの国や地域からオーガニックトラフィックを獲得しているのか、総売上に占める割合、その地域の訪問者のコンバージョン率などを把握できます。これにより、すでに製品の認知が進んでいる市場が明らかになり、国際展開の有望な候補として検討できます。
さらに、こうした調査結果を、国内総生産(GDP)の成長率や越境ショッピング率、消費者支出、嗜好、現地の競争状況、規制環境といった外部指標と照らし合わせることで、より可能性の高い市場を絞り込むことができます。
ローカライズされた戦略を追求する
各ターゲット市場に合わせて戦略をカスタマイズしましょう。これには、商品ラインナップや価格設定、マーケティング資料の調整に加え、現地の言語や文化、顧客の期待に配慮した体験の提供が含まれます。顧客層に合わせてアプローチを最適化することで、ターゲットとなるオーディエンスとの信頼関係を築くことができます。
物流を最適化する
透明性を確保することは、配送時の予期しない請求を防ぐうえで重要です。配送コストや配送日数は事前に提示しましょう。特に、トラブルの原因になりやすい関税を含め、想定外の費用を避けることで、より優れた国際的な顧客体験を提供できます。
Managed Marketsは、こうした複雑さを解消するために、以下の機能を提供しています。
Caden Laneは、越境ECでこれらの機能を活用しているブランドの一つです。同社のCFOであるクリスティン・ジェリー・スワレクは、Managed Marketsの導入により、わずかな期間で180以上の国際市場での販売を開始できたと述べています。
「Managed Marketsで実現できる配送スピードは本当に素晴らしいです。注文がカナダには1日、英国には2〜3日で届きます。しかも、配送コストが以前よりも低いことを考えると、今でも驚いています」とクリスティンは語っています。
Managed Marketsを活用して以降、Caden Laneは販売対象国を2倍以上に拡大しました。その結果、国際売上は692%増加しています。
安全な国際決済ソリューションを導入する
各市場に応じて、複数の安全な決済方法を提供しましょう。Shopify Managed Marketsを利用すれば、150以上の国で現地の決済方法を自動的に有効化でき、このプロセスを簡素化できます。これにより、海外の顧客は使い慣れた決済手段で安心してチェックアウトできるようになります。
また、Managed Marketsは通貨の変動にも対応しており、為替レートを保証することで、特に国際返品時の為替変動による損失から利益を守ります。
現地の法律を遵守する
法的コンプライアンスは、すべてのECストアにとって重要です。場合によっては、国際法に詳しい法律専門家やアドバイザーの支援が必要になることもあります。各市場における国際貿易規制や税制、データプライバシー規則、消費者保護に関する規制への対応を確実に行いましょう。
Managed Marketsを利用すると、こうしたコンプライアンス対応の多くをカバーできます。Global-eを組み込みのMoR(最終販売責任を負う商業者)として活用し、VATや関税、現地税の処理を行います。これらの費用は、顧客がチェックアウト時に前払いし、代理で納付されます。
さらに、Managed Marketsは不正な購入からの保護にも対応しており、各地域の輸入規制や配送制限に基づいて商品カタログを自動的にフィルタリングします。これにより、コンプライアンスを維持しながら運用できます。
カスタマーサービスに投資する
グローバルな顧客に対しては、各市場のニーズに合わせた質の高いカスタマーサービスを提供することが重要です。多言語サポートの提供や、コミュニケーションにおける文化的な違いへの理解、問い合わせへの迅速な対応によって、信頼とロイヤルティを築くことができます。
たとえば、ジュエリーブランドのMade by Maryでは、以前、国外の顧客が注文を受け取るまでに2〜4週間かかっていました。これは、当時利用していたプラットフォームが国際チェックアウトに対応しておらず、商品到着時に予期しない税金や関税が発生していたためです。その結果、サポートへの問い合わせが急増しました。
CEO兼共同創業者のテイラー・ムーディは次のように述べています。「顧客が注文の状況を確認するために私たちに問い合わせてくる時点で、すでに問題が起きています。国外の顧客はリピーターになりにくいため、最初の体験がそのまま最後の体験になってしまうこともあります。」
さらに、商品が1か月以内に届かない場合、Made by Maryは遅延対応として返金を行っていました。越境売上が全体のわずか1%にとどまっていたにもかかわらず、カスタマーサポートにはそれに見合わない負荷がかかっていたといいます。
その後、Made by MaryはManaged Marketsを導入し、これらの課題を解消しました。現在では、現地通貨での価格表示やサイト内テキストの翻訳、チェックアウト時の関税前払いに対応しています。その結果、以下のような改善が見られました。
- 国際注文が90%増加
- 国際注文のコンバージョン率が180%向上
- 国外の顧客からのサポート問い合わせが50%減少
継続的な評価と適応を行う
パフォーマンス指標や顧客フィードバック、市場動向を定期的に確認しましょう。オンラインストアの運営から得られた知見をもとに、戦略や商品展開、業務運営を継続的に見直していくことが重要です。
Shopifyで越境販売を始める
越境ECは、グローバル展開を目指すビジネスに大きな機会をもたらします。十分な調査を行い、戦略をローカライズし、カスタマーサービスを重視することで、国際市場を開拓し、収益を拡大できます。
税関コードや税務ルールの専門知識がなくても新しい国で販売したい場合、Managed Marketsを活用すれば、以下のような要素に対応しながら、商品やマーケティングに集中できます。
- MoR(最終販売責任を負う商業者)として機能し、チェックアウト時に関税や税金を計算する
- 現地の決済方法や通貨に対応する
- 国際配送、追跡、通関手続きを管理する
越境ECに関するよくある質問
Shopifyは越境ECに対応していますか?
はい、Shopifyは越境ECに対応しています。Shopifyの販売チャネルを活用することで、利益率を圧迫する隠れたコストを抑えながら、ブランド認知や顧客基盤を拡大できます。
越境ECの例は?
たとえば、米国の購入者がインドを拠点とする小規模な職人のオンラインストアや、手作りの工芸品を直接購入するケースが挙げられます。この取引では、デジタルプラットフォームを通じて国をまたいだ商品の販売と配送が行われます。さらに、職人はShopify Managed Marketsを活用することで、国際決済の処理や通関書類、規制対応を行うことができます。
なぜ越境ECを検討すべきですか?
越境ECは市場へのリーチを広げ、国内にとどまらず新たなオンライン顧客や収益機会を生み出します。適切に展開できれば、ビジネスの国際的な成長を大きく加速させる可能性があります。
Shopifyで越境ECを始めるには?
まず、どの海外市場に展開するかを特定します(Shopify Analyticsで確認可能です)。次に、Managed Marketsを有効化し、関税の設定や国際配送プロバイダーの選定を行い、実際に海外展開する前にチェックアウトの動作をテストします。
Shopifyは国際注文の関税と税金をどのように処理しますか?
Shopifyは、最終販売責任を負う商業者として機能することで、関税や税金の処理を行います。これらの費用はチェックアウト時に前払いされ、VATの処理も含めて対応されるため、越境取引における遅延を防ぐことができます。
越境ECと現地法人の設立の違いは?
越境ECでは、既存の法人やウェブサイト、業務体制を活用したまま、他国への販売が可能です。その際は、価格設定や関税、配送、決済など必要な要素のみを調整します。一方、現地法人の設立は、その国で正式にビジネスを立ち上げることを意味し、現地での登録や納税、コンプライアンス対応、ローカライズされた運営体制が必要になります。





